【インタビュー】桂葵選手が語る3×3海外挑戦のリアル…ウィメンズシリーズ参戦から4年。東京ストップを迎える想い
2026年7月23日
「FIBA 3×3ウィメンズシリーズ 東京ストップ 2026」(8月1日・2日、国立代々木競技場第二体育館)を前に、桂葵選手にインタビューを行いました。会社員を辞めて起業し、FIBA 3×3ウィメンズシリーズ(以下ウィメンズシリーズ)に参戦したのが4年前。あれから3×3女子日本代表に選出され、今春からアゼルバイジャンの強豪チームに移籍して、世界最高峰の舞台を転戦中です。前例の無い挑戦の過程でどんな苦悩や成長を感じているのか。縁の深い代々木第二に立つ姿に注目です。

2022年に世界へ…「今やらないと、一生できないかもしれない」
――2018年に3×3で競技復帰して以来、今シーズンは海外移籍をされるなど長くプレーされてきました。改めて、3×3の魅力、何を感じながらプレーされていますか。
正直に言うと、最初からそこまでハマっていたわけではなかったんです。どこまでいっても仕事が優先で、3×3はそれを進めながら楽しめるから好き、という感覚でした。だから、どこでこうなったのか、よく分からないんです(笑)。
でも、一番大きなきっかけは、私と同世代あるいはここを通った方々には理解してもらえると思うのですが、30歳を迎える怖さみたいなものが、私を突き動かしたと思っています。
――怖さみたいなものは、具体的にどんなものだったのですか。
女性として、将来子どもがいらないとも言い切れない中で、何歳まで自分のことだけを考えて自由に生きられるのか、バスケットも何歳まで本気でできるのか。そう考えたときに、今やらないと一生できないかもしれないと感じました。会社には7年弱勤めて、楽しさを見いだそうと頑張っていましたが、バスケットボールをしている時間が人生で一番楽しくあり、どれだけ貴重なことかと思ったんです。
もうひとつのきっかけが、東京オリンピックの直後にあった3×3.EXE PREMIERのプレーオフ(2021年9月)です。私は前田有香さん(現3×3女子日本代表ヘッドコーチ)たちとBEEFMAN.EXEとして優勝しましたが、その大会にはオリンピアンが誰もいなかったんです。自分たちが国内でどれだけ戦っても、世界とつながっていない。目指す先はどこなんだっけと、思わされました。
優勝後の取材でも、MVPになりましたが「仕事との両立状況はいかがですか」と聞かれて。当時の状況ではそういう質問も致し方ないのですが、今ここにとどまっていたら、自分の限界なんだと突きつけられた感覚があったんです。飛び出さないといけない。そう思ったのが29歳のときでした。
――そして、会社員を辞めて、2022年にZOOS(ズーズ)を起業。Düsseldorf ZOOSとしてウィメンズシリーズに参戦していく選択に繋がっていくんですね。
私にとってのチャレンジはどこにあるのか。そういう気持ちでウィメンズシリーズに出てみたら、どんどんハマっていった気がします。もちろん、3×3プレーヤーとして世界で戦っていく大変さはありますが、この舞台でひりひりするような挑戦をやりたかったとよく思いますし、できる方法を模索し続けて、もう4年になります。
今春届いた2年越しのオファー。悩んだ末に海外移籍をしたワケ
――そんな中で、今シーズンよりアゼルバイジャンの強豪3×3チーム「Neftchi SOCAR」(以下ネフチ)の一員としてプレーされています。海外チームへ移籍した経緯、想いを聞かせてください。
前田さんが3×3女子代表のヘッドコーチになって、改めて「彼女のもとでやりたい」という気持ちが強くありました。昔から前田さんとの3×3が楽しくて頑張っていた部分もありますし、彼女の力になりたいと言うとおこがましいのですが、前田ジャパンが続いていくと良いなという思いもあります。そのために自分ができることをやりたいと思って始めたのが、3×3日本代表へのチャレンジであり、JAPANの目標でもある2028年のロサンゼルスオリンピックに出場、そしてメダル獲得です。
ところが4月に入って、今シーズンに向けた代表選考が終わったあとに突然、アゼルバイジャン代表のコーチから連絡がありました。ただ、その内容は「コマーシャルチームを立ち上げるかもしれないから、オファーを出したら興味はあるか」という、曖昧なものだったんです。
最初に思ったのは、驚きと戸惑い。そんなわけ無いよねと思いました(笑)。私の優先順位としては、日本代表が一番だったんです。
でも、冷静に考えてみると、選考結果次第で、日本代表のメインの選手ではなかったら、ネフチに行くことが日本のためになるかもしれない。メインの選手だったとしても、ポイントや経験を日本代表に還元できるかもしれない――。これは、私だからこそできる機会だと思うようになって、自分では決められないと感じました。めちゃくちゃ悩みましたね。正解の選択が分からず、JBAへすぐに相談しました。3×3強化部会と相談しながら最善の選択を探した結果が、私がネフチに行くことだったという形になります。
――今回声をかけてくれたコーチとは、もともとつながりがあったんですか?
ウィメンズシリーズを戦っていると、いつも会うチームの選手やスタッフとは顔見知りになって、いろいろな場面でお互いを助け合うようになるんです。そんな中で、私は2024年にアゼルバイジャン代表の合宿に潜入させてもらったことがあったんですよ。
――潜入!?どういうことでしょうか。
私が立ち上げたZOOSは最初2年がコマーシャルチームでしたが、2024年にゲストチームとしてウィメンズシリーズに3大会出場したんです。その最終戦がアゼルバイジャンでした。翌週に現地で3×3ユーロカップがあるので、アゼルバイジャン代表も出場するから合宿をやるだろうと思って、提案をしたんです。
「合宿しますよね。私を練習相手にどうですか?」と。アゼルバイジャンの代表コーチは、3×3強豪国セルビアの出身ですから、私は彼の3×3の指導や練習方法に興味があったんです。あと、当時5人制でプレーしていなかったので、帰国を急ぐ必要も無くて。その提案をきっかけに、2日間ほど練習参加の機会をいただけました。
――潜入したら、どんな収穫があったのでしょうか。
コーチが持つ3×3の知識の深さに触れて感激したのと同時に、思いがけず向こうからもリクエストに対する対応の良さ、3×3の理解度を評価していただけました。ガードの選手からは「初めてピック&ロールが楽しい。葵にアゼルバイジャンのパスポートをあげて」とまで言ってくれたんですよ。私は日本国籍を失うリスクは取りたくないなと思いつつ、“何か進むことがあれば教えて”とだけ伝え、ひとまず終えました。そんな過去もありながら、ネフチの再始動にともなって2年越しのオファーにもつながったと思います。

初めてのチャレンジ。葛藤。素敵なチームメイト…様々な感情の中で
――ネフチには、今年のFIBA 3×3ワールドカップでベスト4に入ったアゼルバイジャン代表選手がそろっています。チームの中で、どんな役割を求められているのでしょうか。
役割を明確に伝えられたことはなく、彼らとプレーしていく中で、自分で見出している感じです。
オフェンスでは、ガードがより気持ちよく、よりクリアな判断ができるように、スクリーナーとしての役割が一番大きいと思っています。もうひとつ大きな役割がディフェンスです。これは、ここに来て初めてのチャレンジになります。
私はディフェンスではガードとしてカウントされているので、スクリーンが起きたときにチェイスしたり、スイッチしたりして相手ガードをマークすることが当たり前のように求められます。対戦相手ごとのチームルールを聞いていると、汎用性の高さがネフチで自分が生み出せる価値だと感じています。「葵がいると、ディフェンスが良くなる」という、これまでの私だったら考えたこともない言葉も掛けられて、彼らの期待にもすごく応えたいと思っています。
――これまで桂選手はチームの中心選手でしたが、ネフチでは立場も変わったと思います。そういう環境でプレーできる喜びとプレッシャー、どちらが大きいのでしょうか。
両方すごくあります!特にガードの2人はバスケットボールが本当に上手くて、彼女たちにとっての正解でありたい。「あ、それ!それ!」と思われるスクリーナーでありたいし、ディフェンスでは絶対に貢献したい。そのプレッシャーは、毎試合あります。
日本やZOOSでプレーしていたときは、シュートを打つことが勝つための正解だというメンタリティで、迷わず打っていました。ただ、ネフチではそういった試合を決定づける役割ではなく、基本的にはみんなをフォローする立場に変わったため、葛藤もあります。
ガード陣の能力が高い分、自分が打つよりもいい選択があるかもしれないと、頭のどこかで考えてしまう。ドライブひとつとっても、前ほど思い切ってできていない部分があります。
ただ、うまく私がボールに絡めない試合があって、それでもチームが上手くいっていれば良いのですが、上手くいってないのに自分へチャンスが回ってこないときは、フラストレーションが溜まります。くそーーーー!という気持ちにもなりますね。オンコートもオフコートも本当に良いチームメイトですが、自分の優先順位が高くないと感じる場面もあるんです。
それでも俯瞰して見ると、バスケットボールを通じてチャレンジングな毎日があって、素敵なチームメイトに恵まれ、いろいろな感情になるくらい夢中になれている。それでお金をもらえて生活が成り立つ状況は、幸せなことだと思います。この視点を自分で行き来しながら、毎日を過ごしています。
――落ち込んだときに、どう気持ちを立て直しているのですか。
相談できるときは、前田さんに連絡することもありますが、代表活動を優先してほしいという気持ちがあるので、気を遣いながらですね。もう、特効薬はないと思っているんです。
結局は自分が環境にアジャストしていくだけ。気に入らないことがあれば、伝え方を考えながらチームメイトやコーチに話すようにしています。基本的に私はニコニコしているイメージを持たれているので、わざと怒る態度を見せたこともありました(笑)。そうすると、こっちの真剣度合いも伝わるんです。
あとは何より、大事なのは引きずらないことです。3×3は四六時中、一緒にいて旅が続いていく。家族のように過ごさないといけないスポーツなので、練習で兄弟喧嘩のようにぶつかっても、食事をする瞬間には切り替えて、当たり前のように楽しい会話をする。バスケットボール選手として抱えているフラストレーションと、人としてチームメイトを尊敬している気持ちは切り分ける。これが今のところ、私が頑張れている秘訣だと思います。

代々木第二に立つ本音…それでも「私の“覚悟”を見てほしい」
――いよいよ8月1日・2日には東京ストップを迎えます。ネフチの一員として、しかも場所は桂選手が早稲田大学時代にインカレ制覇を飾った代々木第二体育館です。今の心境を聞かせてください。
ワクワクする気持ちはもちろんありますが、正直に言うとイヤですね(笑)。
――イヤ!?どういうことでしょうか。
やっぱり日本でやるときは日本代表として戦いたかったという気持ちが、めちゃくちゃありますね。日本代表は応援しているので、チーム作りも上手くいくと良いなと思っている分、できれば対戦したくない気持ちがあります。
ただ、個人的な思いとは別に3×3業界全体で考えると、ウィメンズシリーズが日本で開催されることで、世界最高峰の舞台をより現実的に感じられて、目指す選手や子どもたちが出てくると良いなと思っています。私自身、2019年に大神雄子さんが誘致した東京大会を見に行って「私もここで戦いたい」「世界の舞台に立ちたい」とSNSに投稿したのを覚えています。あの舞台を見ることが、私にそう思わせてくれたんです。
――最後に、日本のファンの皆さんへ、桂葵のココを見てほしいというところを聞かせてください。
私の“覚悟”を見てほしいです。試合を見て「桂葵、腹をくくっているな」と思ってもらえたら嬉しいです。ネフチでプレーすることが自分にとってどういうことなのか、そしてチームの中で自分の役割を証明していくプロセス、桂がどう生き残ろうとしているのか。そんな葛藤も含めて、コート上の姿で伝わるような試合をしたいと思います。